ブログ

2023年度 災害時通訳研修

 2月初めに神奈川県災害時通訳翻訳ボランティア登録者向け「2023年度 災害時通訳研修」に参加しました。

 外国人住民の増加と定住化に伴い、地域社会の多文化化が進展していること、および自然災害の頻発化・激甚化を踏まえて、東日本大震災を事例に、災害時の通訳翻訳ボランティアに求められる心構えやノウハウが伝えられました。

 冒頭のあいさつで、講師の菊池哲佳氏(一般社団法人多文化社会専門職機構)はとても重要なキーワード「エンパシー」、すなわち「人の気持ちを思いやること」を強調しました。東日本大震災の体験をもとに、仙台観光国際協会が作成した教材をベースにしたワークショップが行われ、避難所で言葉や文化の異なる外国人被災者の対応について考えさせられました。

 日ごろから、どのように外国人と協力できる関係を築くかが需要な課題であると認識しました。災害時に地域全体が助け合うには、過去の災害で学んだ教訓を活かしながら、外国人を避難訓練の運用に加えるなどして、事前に準備を積み重ねなければ、実際に災害が起きた際の対応は難しいと思います。

 最後の質疑応答で、2019年に大風接近時に避難勧告のメッセージが自動翻訳ソフトで「増水の川へ避難を」と誤訳され、在日ブラジル人へ発信されたことを思い出し(詳しくはこちら)、災害時に機械翻訳の導入について質問させていただきました。菊池氏のご回答はとても明快で、人命にかかわることは機械に任せるのではなく、やはり人が対応すべきとのことでした。

 今回の災害訓練で、スポーツや芸術・文化イベントをとおして、在日外国人と交流する機会が積極的に行われれば、文化や言葉の壁は自然に超えられ、意識せずともエンパシーが育まれるはずだと、改めて対面でのコミュニケーションの重要性を感じました。

2024年 新年のご挨拶

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

旧年中は、格別のご厚情を賜り、誠にありがとうございました。

本年も、さらなる翻訳品質の向上を目指して、精一杯努力する所存です。

このたびの能登半島地震により被災された方々には心からお見舞い申し上げます。

皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

Desejo muita paz, saúde e sorte para todos em 2024!

AI翻訳・LLM

2016年に日本翻訳連盟(Japan Translation Federation、JTF)に入会してから、京都で開催された第28回(2018年)を除き、JTF翻訳祭に毎年参加しています。今年、ハイブリッド形式(リアル会場&オンライン)で開催された第32回JTF翻訳祭2023にもアーカイブ動画を視聴する形で参加しました。

去年のJTF翻訳祭2022では「AI翻訳との共存」と題したセッションもありましたが、今年の方が各セッションのタイトルにChatGPTやAI翻訳のキーワードが多く使われていたことが印象に残っています。今回の翻訳祭は「どうする!?翻訳通訳業界」がテーマだったので、やはり生成AIブームの火付け役となったChatGPTのような大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)に対する翻訳業界の警戒感(あるいは期待感)が表れていたと思います。

一般にもAI翻訳という言葉がだいぶ普及してきた感じがしますが、ChatGPTなどのLLMは文脈の理解や文章生成の自然言語処理に重点を置いており、本来はDeepLやGoogle翻訳などのニューラル機械翻訳(Neural Machine Translation、NMT)の方が翻訳に特化しています。しかし、LLMは幅広いコンテンツを学習しているため、分野を問わず従来のNMTモデルより自然な文章を出力できるのが強みです。

なお、ChatGPT(OpenAI)やCopilot(MS)、Bard(Google)などのメジャーなチャットAIの学習に使用されるデータセットの主要言語は英語なので、英語を含まない言語ペアー(例えば日本語とポルトガル語)の翻訳精度はそれほど高くない場合があります。これはNMTにもいえることですが、英語の翻訳精度を前提として他の言語の組み合わせでも同じ精度が得られると期待するのは過信になります。NTTの「tsuzumi」のような日本語の処理能力が高いLLMも開発されていますが、機密保持やハルシネーション(もっともらしい嘘)の問題をクリアしているのかも気になるところです。

さた、今年も残りわずかとなりました。本年も多くの翻訳会社・LSPに格別のご厚情を賜り、心より感謝申し上げます。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

Feliz 2024! Happy 2024!どうぞ良いお年をお迎えください!

JTFセミナー&つーほんウェビナー

 さる7月6日(木)に開催された2023年度第1回JTFセミナー「新しい翻訳英文法:AI翻訳時代を生き延びるために」に参加しました。また、18日(火)には通訳・翻訳ジャーナル主催の第10回つーほんウェビナー「ローカライズ実績1万作以上!MediBangがナビ~マンガ翻訳最前線~」を視聴しました。

 JTFセミナーでは、通常の「訳し上げ」に対して、理論的に裏付けされた「順送り訳」に納得し、特に日葡の字幕翻訳において非常に有効であると感じました。文脈によりますが、産業翻訳など他の分野でも順送り訳の実践が増えるべきだと感じました。ただし、多言語で配信される日本語の作品の多くは英訳されからその後他の言語に翻訳されるため、まず重訳による誤訳の問題を解決する必要があります。

 マンガ翻訳のウェビナーも非常に興味深く、原文の構造を保つ「順送り訳」の手法は間違いなく役立つと思いました。マンガ翻訳ならではの写植やオノマトペの工夫も面白く、ブラジル向けの配信ニーズが高まり、日本語原文から直接ポルトガル語に翻訳された作品が増えることを願っています。ポルトガル語の監修をさせていただいている迫稔雄先生の連載中の作品「バトゥーキ」のポルトガル語翻訳に関わる機会があれば、この上ない喜びで発狂するに違いありません。

“ChatGPT”革命

昨夜、1000人以上が参加したオンラインイベント“ChatGPT in Localization”を視聴しました。AI翻訳の開発・実用化に携わっている第一人者Marco TrombettiやTradosの生みの親とされるJochen Hummelなど豪華ゲストが登場し、今後の展開について様々なビジョンを語りました。スタートが深夜0時でしたが、約4時間続いたイベントは眠気を吹き飛ばすほど興味深く、YouTubeで録画が公開されているためぜひ視聴してみてください。

ChatGPT in Localization

Trombetti氏によるとAI翻訳が生成する文章は流暢だが精度が低く、それを補うためには従来のNMTと組み合わせる解決を提案しました。また、Hummel氏はAI技術が国のインフラ同様に扱われるべきで、特定の企業や国によるデータの独占についてもフェアな扱いが必要との意見に他のゲストも賛同しました。当然、情報保護の観点でまだまだ注視する必要も指摘されました。

ジェネレーティブ(生成系)AIはコピーライティングでの活用や要約にも利用されることが期待されており、リサーチの時間短縮に役立つ可能性もあります。しかし、ファクトチェックは不可欠であり、AIにはまだ嘘を見抜く能力がないため(逆に嘘をつく!)、人間(翻訳者)の仕事はなくなることはないとの意見もあります。また、イベントでは触れられなかったが、GPTを取り入れたNew Bingのローンチを個人的にかなり期待しています。AI翻訳革命ついに到来するか?

Feliz Ano Novo!

昨年は多くのお力添えいただき誠にありがとうございました

ご期待にお応えしより一層業務に努めて参ります

今後ともお引き立てくださいますようお願い申し上げます

令和5年 正月

プレゼント

当選しました!

先日参加した【第3回つーほんウェビナー】通訳・翻訳ジャーナル30周年記念 特別対談「プロが語る! 通訳・翻訳業界、いまどうなってるの?」の電子書籍版プレゼント『通訳・翻訳ジャーナル 2022年夏号』をいただきました!

思い返せばこのように当選したのは人生初かもしれない…

通訳・翻訳ジャーナル編集部さん、ありがとうございます!

Obrigado!

ポルトガル語の日

去る5月5日はこどもの日でしたが、同日は2019年にUNESCOによって「世界のポルトガル語の日」(dia mundial da língua portuguesa)として選ばれました。

ポルトガル語はアンゴラ、ブラジル、カーボヴェルデ、ギニアビサウ、赤道ギニア、モザンビーク、ポルトガル、サントメ・プリンシペ、東ティモールの9か国および中国マカオ特別行政区の公用語で、母語話者人口は約2.6億人(ブラジルだけで2億人強)とされ、世界で最も使われる言語のトップ10にランクインし、南半球では一番使われている言語とされています。

ポルトガル語圏の上記9か国からなるポルトガル語諸国共同体(Comunidade dos Países de Língua Portuguesa – CPLP)に、2015年から日本はオブザーバーとして参加しており、アフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development – TICAD)による日本政府が主導する活動もあって、実際にアフリカのアンゴラやモザンビーク向けのODA関連の翻訳案件も多く対応させていただいております。

ユーラシア・南米・アフリカの3大陸をまたいで使われるポルトガル語ですが、言語バリエーション(言語変異)は欧州と南米ポルトガル語の2つで、ブラジル以外では欧州ポルトガル語が主流です。欧州ポルトガル語(葡語)に対して、ブラジル・ポルトガル語は伯語と呼ばこともあります。

ポルトガル語圏の正書法を統一する目的で1990年にCPLP加盟国は新正書法(novo acordo ortográfico)の導入に同意したでのですが、30年余りたった今でもブラジル・ポルトガル・カーボヴェルデの3か国以外では以前の正書法がまだ使われ続けられているのが現状です。

日本では在日ブラジル人が20万人前後いるとされており、コミュニティー翻訳の分野でくらし全般(健康・福祉、医療・保健、労働、教育、防災、在留各種手続等)の重要性も忘れてはいけません。その中で、2019年に大風接近の避難勧告のメッセージで自動翻訳ソフトが使われて、ポルトガル語で「増水の川へ避難を」の誤訳が在日ブラジル人へ発信されたことがまだ記憶に新しい(詳しくはこちら)。人命にもかかわりかねない同じようなミスが繰り返されないためには、年々精度が向上している(?)とはいえ、便利な機械翻訳を過信せず、関係者すべてが責任と誠意を持って地道に取り組まなければなりません。

久々の勉強会

先週の金曜日(7/8)に久々の勉強会を開催しました。コロナ禍が続く中、今後の活動内容について話し合い、気楽に情報を発信することになりました。今回は初めてGoogle Meetを使用しましたが、操作しやすく、無料にも関わらず時間制限がなく、動作もスムーズで大満足。JICAの「正しい手洗い漫画」の翻訳プロジェクトや動画字幕ソフト「Subtitle Edit」を簡単に紹介し、ブラジル・ポルトガル語の有料オンライン辞書「Houaiss」とライセンス(ダウンロード)型の「Aurélio」、そしてつい昨日に追加されたコトバンクの葡日・日葡辞書(小学館の現代日葡辞典とプログレッシブ ポルトガル語辞典)もメンバーにお勧めしました。後日、其々が勉強会のブログを更新することに。

日葡翻訳勉強会「NIPPO CONNECTIONS」のブログはこちら

2021春

コロナ禍の収束はおろか、収束の見通しすら立たない中、翻訳業界への影響が危惧される一方、昨年末から怒涛の翻訳ラッシュで、ありがたいことに寝る暇を惜しんで作業に取り掛かりました。

4月に入り、スケジュールが落ち着いたところで、今度は確定申告のためにおろそかにしていた経理に取り掛かることに。会計ソフトを使っていますが、さすがに翻訳会社40社程との取引の記帳を整理するのは手間がかかります。

無事に確定申告が終わり、次は昨年末にサーバー移行でバクアップに失敗し、今まで書いたブログが消失したサイトに手を付けることに。以前よりシンプルなサイトになりましたが、各ページのポルトガル語版も作り、何とか公開できました。ブログは日本語がメインで、気が向いたらポルトガル語で書きます(母語なのに…)。

勉強会 NIPPO CONNECTIONS の活動も昨年からずっと止まっていて、そろそろ復活しなければ。在日ブラジル人コミュニティーが多い自治体を対象に、ポルトガル語で発信されている情報について調べる課題を出したままでした。一息入れて、今年度からまた徐々に活動して行ければと思います。